西スポWEB otto!

Sports otto!

選手たちが躍動して甲子園初出場初勝利…今大会最年長監督が率いるエナジックスポーツの「ノーサイン野球」その原点、大事なこととは

 ◆選抜高校野球1回戦・エナジックスポーツ8―0至学館(21日、甲子園)

 ネット裏から見ると、一塁側ベンチの右端。69歳の老将は、そこからグラウンドをじっと、温かいまなざしで見つめていた。

 「きょうは、いい感じで(試合を)運んでいましたね。もっと積極的に動いてもいいかな、と思ったりもしますが、試合中はあまり言いません。きょうは想定内の動きをしていましたね」

 今大会出場の32校で、最年長の指揮官となる神谷嘉宗監督は、その〝定位置〟から、指示を送ることはない。すっかり、エナジックスポーツ(沖縄)の代名詞となった「ノーサイン野球」。ブロックサインの動きなど全くない。他校なら、1球ごとに選手たちは監督の動きや指示を見るのが当たり前だが、エナジックスポーツのナインは、打席に入ってからも、選手たちはベンチすら見ない。守備中のタイムは1校3回までだが、そのタイミングも選手たちに任されている。

 「私の方針は、もともと『自主性』です。それと一致しているのかなと思いますけども、そこまで考えたことなかったですね」。すべてを任せた選手たちが甲子園の大舞台で自由に動き回り、打っては13安打8得点、投げてはエースの左腕・久高颯(3年)が4安打完封。創部3年目の初出場で、持ち味を存分に出し切っての記念すべき甲子園初勝利に「うれしかった。最後まで元気がありましたね」と神谷監督は興奮するわけでもなく、かといってポーカーフェースでもなく、ひょうひょうとした感じで振り返った。

 先制点の2回も、セオリー通りではない〝アドリブ攻撃〟だった。先頭の4番・富盛恭太(2年)が右前打で出塁。いわゆる甲子園戦法なら、確実に送りバントの場面だ。当然ながらベンチからサインは出ないから、自分たちで作戦は考える。5番・平良章伍(3年)は、両手のグリップを数センチ離して持つ〝天秤打法〟で、至学館(愛知)バッテリーを揺さぶった。「あの構えだとバントでもどちらでもできる。あれが理想の構えです」。初球はバントの構えから、バットを引いてボール。続く2球目は強攻の構えで見逃し。3球目はバント失敗で1ボール2ストライク。4球目を強攻してファウル。続く5球目だった。一走・富盛がスタートを切った。その瞬間、相手のショートが二塁ベース方向へ動いたのが見えた。

 「だから、三遊間を狙って打ちました」

 左打者の平良は、とっさに流し打ち。セオリーなら走者をアシストする意味でも右方向に引っ張り、内野ゴロでも二塁ベースから野手を遠ざけることで一走を生かす進塁打、あわよくば右前打で一、三塁とチャンスを広げることを考えて動く場面。しかし平良の打球は、そのがら空きになった三遊間を破る左前打。これで一、二塁となり、続く伊佐英太(3年)は送りバント、福本琉依(3年)の四球での1死満塁から、8番の久高が先制の右犠飛。つまり、平良の〝セオリー外の流し打ち〟が、先制点のお膳立てとなったのだ。

 「やっぱり、セオリーというのも大事ですけど、相手の守備も動く。隙があっても、サインが出ていたら、そこをつけない。こういう動きを相手がするんだと思って、次にやろうと思っても、ワンテンポ遅いというのがある」と神谷監督。普段の練習も、実戦形式が中心。ミスが出たら、練習後のミーティングで選手たちが意見を出し合い「全員で共通認識を持つために集まって、その人の意見の組み合わせというのをするようにしています」と平良は語る。だから、アイコンタクトもめったになければ、選手同士でサインを送り合うわけでもなく、寮生活でコミュニケーションを取り、それぞれの性格やプレースタイルまで熟知し合っているという、まさしく以心伝心。5回無死一塁から、2番打者の一走・山城幹大(3年)が二盗成功。相手の悪送球を見て三塁を狙ったがタッチアウト。クリーンアップに回る貴重な追加点のチャンスを逸したが「あれは全然痛いミスじゃない。どんどん狙っていいということになっていますから」と平良が言えば、7回無死一塁から、一走・宮里康平(3年)がスタートを切ったのを見て、1番のイーマン琉海(3年)が2回の平良と同様、空いた三遊間を狙っての流し打ち。再びの〝セオリー無視の打撃〟で内野安打とし、このチャンスをきっかけに、打者10人の猛攻で6得点を挙げた。自分たちで考え、自分たちで動く、その〝エナジック・スタイル〟での快勝劇だった。

 神谷監督が、ノーサイン野球の〝バイブル〟として挙げるのが、山口・東亜大を全日本大学選手権で3度優勝に導いた中野泰造元監督の著書「シン・ノーサイン野球の授業」だという。「いかに弱小チームでも大物を食えるか。それがノーサイン野球かなと思って研究してきました。中野さんは、ノーサインの神様です」。浦添商監督時代の2008年夏、その春に沖縄尚学を2度目のセンバツ制覇に導いた東浜巨―嶺井博希(いずれもソフトバンク)の強力バッテリーを破って甲子園に導き4強入り。14年春も美里工の監督としてセンバツ出場。激戦の沖縄から公立校を甲子園に導いたベテラン監督が「美里工での途中くらいから、ノーサイン野球に取り組み始めました」。選手の主体性を信じ、選手たちに完全に任せる。大事なのは、と問われた老将は「勇気です」と即答。「結局、自分で判断して、自分で責任を取らないといけない。それを日頃の練習で積み重ねていって、あとは失敗を恐れないこと」。選手たちの「勇気」を信じ、じっと見守る甲子園。伸び伸びとやれる舞台を整えてやれば、選手たちは、こんなにも躍動できるのだ。

おすすめ関連記事

Related otto!

関連otto!

<< 2025年04月 >>
30
31
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
01
02
03

西スポ

西スポ

 

速報、お知らせなど、さまざまな情報をお伝えするアカウントです。

Recent Articles

最近のotto!

現在記事はありません。

Access Ranking TOP5

アクセスランキング